これらをまとめて考えてみよう。
現在市場で優位なFPIUは、性能面ではセダンに大きく劣るところはなく、価格もこなれている。
燃費が悪いのは気にはなるが、利便性の面ではセダンを上回り、またシボレー・タホより安い。
様々な任務に対応できる汎用性を持つ事から、現在主流の車種となっているのは頷ける。
シボレー・タホも以前と比べて走行性能が改善されており、燃費も他と比較して悪くはなく、大きな車体で利便性は高い。
価格も高いのでそれほど沢山の数はでないものの、警察での運用においては欠くことのできない車だろう。
これらの車が新車販売の主流になったのは、やはりそうなるだけの「買っておけば間違いはない」ものがあったのだ。
一方で新車市場において亜流となったセダンだが、それでもまだ4割程度の需要はセダンに向かっている。
こなれたコストと高い走行性能は健在ではあるが、SUVの走行性能が上がった事で、相対的な汎用性が低さが目立つようになった。
それでも差が無くなったわけではないので、運用の中心からは外れつつあるものの、排除されるまでには至ってないということだろう。
今後はさらにSUV化が進んでいくかも知れない。
カリフォルニア・ハイウェイパトロール(CHP)は5年前からCVPIをFPIUへ置き換える計画を進めてきた
*3。
現在は580台のダッジ・チャージャーの導入を進めていることから
*4、今後もSUV化が続くのかセダン回帰があるのかは分からない部分もある。
ただ高性能なSUVはセダンの代替と成り得ることが証明されたのは確かだ。
一方でニューヨーク市警察(NYPD)はパトカーの防弾化を進めており
*5、2017年1月に記者に公開された車両はFPIUを防弾化した車両だった。
このプログラムは2014年12月に発生した警察官射殺事件を受け始まったもので
*6、パトカーの運転席窓に防弾ガラスを仕込むなど、従来よりも防弾性能を高めるためのもの。
ビッグ3が供給するパトカーはドア内側に防弾パネルを装着できるオプションが元々あるのだが、ニューヨーク市とNYPDはそれよりもさらに高い防弾性能を求めている。
2014年の事件は射殺された警察官にとっては完全な不意打ちであり、現在のパトカーではそういった攻撃に耐えられないのが理由だ。
この防弾化プログラムを進めていくにあたっては「車両はSUVに限る」と言われているわけでは無いし、またセダンを排除するならプログラムは上手く行かないだろう。
NYPDは多数のセダンをフリートに抱えており、それらは所轄署やハイウェイパトロールなど各部隊に配備されているからだ。
先の発表でFPIUがモデルとして示されたからと言って、それが即フリートのSUV化を意味しているというわけではない。
ただFPIUは最近新設された広域対応局(Citywide Operations Bureau)所属の執行隊である戦略対応部隊(Strategic Response Group)にも多くが配備されている事から、
FPIUのようなSUVがNYPDの運用においてより重要になっていくだろうと思われる。
CHPやNYPDは大きな組織だが、アメリカに数多あるもっと小さい組織を考えてみたい。
警察官は多くて数百人、数十人や数人ということも多い、小さな警察本部や保安官事務所の場合だ。
これらの組織の予算規模はCHPやNYPDより遥かに小さく、それほど大規模な車両調達や更新ができるわけではない。
必ずしも新車を買うとは限らず、サイレンや警光灯や無線機が外された中古のパトカーを購入し、再びパトカーとして使う事もある。
彼らの立場でものを見た時、色々な任務で使えるSUVは魅力的だろうと思う。
従来ならセダンとSUVで運用を分けていたところを、SUVに統一すれば随分と融通が効く。
パトロールだろうが刑事だろうが特殊部隊だろうが、ともかく何にでも使えて性能は十分。
さらに現在の新車市場がSUV優勢ということは、数年後にそれらが放出される時もSUVの割合が高いということ。
予算の都合で中古のパトカーを買うとなった時、市場にはかつてのCVPIのようにSUVが多くあるのだ。
なにか差し障りがない限り、「これを買っておけば間違いがない」SUVを求めるのは当然と言うものだろう。
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