LSPD:First Response まとめサイト - パトカーの価格と購入


以前の豆知識記事でパトカーの価格について少し触れた。
その続きと言うわけではないが、今回は警察がパトカーを購入する方法や価格について掘り下げていく。
日本は警察庁が競争入札の上で調達(国費導入)すると言うのが一般的だが、アメリカではどうなっているのだろうか?。
管理人が独自入手(ググったとも言う)した資料を参考にしつつ述べていこう。

目次

購入方法

警察がパトカーを購入する主な方法は以下の3つ。

  1. 販売店で買う
  2. メーカーの法人向け販売を利用する (リース含む)
  3. 協同組合を通じた購入

1は個人と同じように店舗で購入する方法。
以前の記事でAutoblogの販売車検索について述べたが、この検索で見つかる車は全て販売店にある在庫のもの。
つまり普通の車と同じように販売店で取り扱っている車だ。
ご存知の方も多いだろうが、アメリカの自動車は現物販売が基本となっている。
販売店の在庫に気に入ったものがあればそれを購入し、目当ての物がなければ別途発注をして購入すると言うもの。
小さな警察や保安官事務所の場合、こういった方法で調達するところも少なくないだろう。
一台ずつ購入できるので小規模の調達には都合が良いが、トレードオフで割高になり易いという欠点もある。

2はメーカーの法人向け販売を利用するもの。
アメリカで事業を展開している量産車メーカーはどこも法人向けの販売サービスを行っており、顧客となる法人には自治体や政府もある、よってメーカーの官公庁向け販売サービスもあるわけだ。
フォードの官公庁向けの販売プログラムを例として見てみよう*1
販売プログラムだから自動車調達に関する相談受付や契約が主たる業務だが、官公庁向け金融サービスもプログラムに含まれており、金融には大別してローンとリース契約の二種類がある。
このあたりは日本の自動車市場で行われている法人向け自動車販売と同じだ。
そんなフォード・クレジットの自治体向け金融サービスのページを見ると、2台のポリスインターセプターが写った大きな画像が目に入ってきた。
これは自治体向け金融サービスが、警察車両調達を強く意識したものであることを如実に示している。
考えてみれば当然の事で、自治体フリートに占める警察と消防・救急は割合は大きい。
それは自動車関係の歳出に占める警察や消防の割合が高いのと同義なのだから、ここを狙った金融サービスを行うのは理に適ったものだ。
自治体金融サービスのパンフレットには*2、フォード・クレジットを利用した方がより多くの車両を調達できると示されている。

3は小規模の市町村で取られている方法で、協同組合を通じて共同購入をするというもの。
小規模自治体はフリートの絶対規模が小さく、よって毎年度の調達数も小さいのが特徴だ。
購入方法としては1が手っ取り早いが、それでは調達単価が割高になってしまう。
2はどうか?小規模でもフリートユーザーならメーカーは相手にしてくれるだろうが、条件面でどうなるかは一概に言えない。
そこで共同購入と言う形で発注数を大きくすれば、調達単価を圧縮する事が可能となる。
欠点はまとめ発注することとのトレードオフで、購入時期が制約される事。
言い換えれば組合員となる自治体は、調達と発注の時期を揃える必要がある。
急に調達が必要となった場合には、1か2のいずれかの方法を取らなくてはならない。
また必ずしも欲しい車が商材として用意されているとは限らない。
ビッグ3が用意する主なパトカー仕様車は購入できるはずだが、それ以外で必要な車両がある場合は独自購入となる。

ところで日本では一般的な競争入札だが、管理人が探した範囲では見つけられなかった。
無いことは無いと思うのだが、少なくとも上記三つは日本で言う随意契約に相当する。
機能や要求を優先し、単価は購入方法の工夫で下げているのかも知れない。

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パトカーの価格 〜共同購入の場合〜

パトカーの調達方法として三種類あることを述べてきた。
では実際に購入する価格とは具体的にどの程度なのか?。
イリノイ州のシカゴ周辺部の自治体で作るノースウェスト自治体協議会(NWMC)の共同購入を例として見てみよう。
共同購入ということから条件的には有利なはずであり、どこの警察でもこの値段で買えると言うわけではない。
ただ調達価格を考察する参考とはなるだろう。

NWMC:ノースウェスト自治体協議会

価格の話をする前に、NWMCそのものについて簡単に説明しておきたい。
NWMCはシカゴ市北西部に位置する自治体で作る協議会で、45の自治体が会員となっている*3
会員自治体はシカゴ都市圏のベッドタウンということもあり、地域活性化や住民サービスなどの充実に余念がない。
ただ個々の規模は小さいことから、単独事業で出来ることは限られたものだ。
そこで協議会を作り協力する事で、住民サービスの充実や業務の効率化に取り組んでいる。

協議会で行っている協力事業は職員の採用試験や訓練、放出品のオークション、災害対策など多岐に及ぶ。
その中に公用車の共同購入もあり、パトカーも共同購入の対象となっている。

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基本価格

本題。
NWMCのパトカー購入は、まず予め幾つかの車種に絞り込む。
その上で各会員が欲しい車を選び、オプションで様々な装備を追加し、それを提携する販売店を介して発注する。
ここで取り上げるのは2017年春の調達分で*4、申し込み締め切りは車種で異なるが3月か4月である。
以下がこの調達分で注文できる車種と基本価格、基本的な仕様である。

車名基本価格基本仕様
フォード・ポリスインターセプター
セダン
(FPIS)
$23,544.003.7L V6 305hp
AWD
6速AT
フォード・ポリスインターセプター
ユーティリティ
(FPIU)
$26,456.003.7L V6 304hp
AWD
6速AT
ダッジ・チャージャー・パースート$21,750.003.6L V6 300hp
RWD
5速AT
シボレー・タホ・PPV$32,933.495.3L V8 355hp
RWD
6速AT

上記を見て真っ先に分かるのは、シボレー・カプリス・PPVが入っていない事。
飽くまで一例ではあるのだが、共同購入で対象としないところがあるとなると、なんでカプリスが売れていないのかが分かった気がする。

各車の仕様は最廉価若しくはそれに等しいものとなっており、応じて価格もかなり安く見えるものとなっている。
それでもFPIUは$26,000強となっており、同一エンジン・駆動方式のFPISより約$3,000高い。
販売台数を考えると、2016年の新車パトカーの半分以上がFPIUになる計算だが、$3,000を余分に払っても良いぐらいSUVパトカーは便利なのだろう。
逆に言えば、セダンは差が縮まったとは言えSUVよりは走行性能が高く、おまけにFPIUより安いのだが、それでも販売台数はFPISとチャージャーを合わせてFPIUの半分程度と見られる。
便利なものになれてしまうと・・・というのは、個人使用でもお巡りさんでも一緒なのかも知れない。

ここで紹介した仕様は自動車としては実用上問題ない状態だが、パトカーとして見ると防弾パネルが無かったり、アメリカのパトカーによくあるAピラースポットライトがないなど足りない所も多い。
警光灯やサイレンなども含まれていないが、それは一般の整備工場や警察の整備部門で取り付けるものなので、元々この発注に含まれる性質のものではない。
次はオプションの類を見ていこう。

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エンジンと駆動系

先述のエンジンは基本的な仕様のものだが、ポリスインターセプターとチャージャーは上位エンジンを選ぶ事ができる。
前者は3.5LのV6ターボ(365hp)、後者は5.7LのV8(370hp)である。
またタホとチャージャーはRWDが標準だが、オプションでAWDにする事も可能となっている(チャージャーのAWDはV8のみ)。
これらを変更すると幾らぐらいかかるのだろうか?。

車種追加費用合計
FPIS V6ターボエンジン+$2,845$26,389
FPIU V6ターボエンジン+$3,106$29,562
チャージャー V8 RWD+$918$22,688
チャージャー V8 AWD+$2,064$23,814
タホ AWD+$3,790$36,723.49

ざっと見た感じだと、チャージャーが随分安い事が分かる。
V8 RWDで良いなら追加料金は$1,000未満だし、AWDを追加したとしてもV6 NAのFPISと同程度。
FPIUはチャージャーに比べて$6,000、FPISと比べても$3,000高い。
FCAが投売りなのか、フォードがボってるのか、どちらも収益の面で適正価格なのかは分からない。
ただ主要三車種の中で一番高いFPIUが最も売れているということは、きっとそれだけ良い車なのだろう(自信は無い)。

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防弾パネル

銃社会アメリカにとってはこれも大事だろう、ドアの中に装着する防弾パネル。
ここに挙げている車種だと、シボレー・タホを除きメーカーオプションとなっている。
タホは車外品をつける事は可能なのだが*5、メーカーのカタログを見ても防弾パネルの記述は無かった*6
GMの方針としては防弾パネルは車外品を付けてくれということらしい、なんかちょっと不親切と言う気もする。
防弾パネルの価格は以下の通り。

FPIS運転席側のみ+$1,446
両側+$2,887
FPIU
NIJ Level III
運転席側のみ+$1,506
両側+$3.012
FPIU
NIJ Level IV
運転席側のみ+$2,294
両側+$4,588
チャージャー運転席側のみ+$2,092
両側+$4,184

NIJという、アメリカ警察やミリタリーのヲタ以外には耳慣れない言葉が出てきた。
これは連邦司法省が定める規格名の略称であり、日本の類似例を挙げれば工業規格のJISや農林規格JASのようなものである。
NIJは法執行に関わる様々なものについて定めた規格なのだが、上記の場合は防弾に関するものとなる。
NIJ Level IIIは拳銃弾及び突撃銃などで使われる5.56mmや7.62mmに耐え得るもの、NIJ Level IVは自動小銃や狙撃銃で使われる徹甲弾に耐えうるものを意味する。
そんなものをパトカーに付けなければならないのかと思うかも知れないが、現に突撃銃を使った犯罪が起きている事を考えると必要性はあると言える。
絶対的な価格は安くはないが、整列した儀仗隊を眺めながら、バグパイプ隊が奏でるアメイジンググレイスを聞くよりはマシだろう。

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Aピラースポットライト

アメリカのパトカーは、よくAピラーにスポットライトを装着している。
警察によっては付けていない場合もあるが、違いはオプションを頼むかどうかという点。
価格は以下の通り。

FPISハロゲン
運転席側のみ
+$196チャージャーハロゲン
運転席側のみ
+$187
ハロゲン
両側
+$360ハロゲン
両側
+$374
LED
運転席側のみ
+$316LED
運転席側のみ
+$321
LED
両側
+$564LED
両側
+$641
FPIUハロゲン
運転席側のみ
+$204タホ運転席側のみ+$431,20
ハロゲン
両側
+$334両側+$721.60
LED
運転席側のみ
+$375
LED
両側
+$541

このようになっている。
価格表を見て気になったのは、ポリスインターセプターの方にはPrep kit(準備キット)という項目があること。
ポリスインターセプターの架装マニュアルには*7、Aピラーにドリルで穴を開けてスポットライトを装着する手順が載っている。
もしかしたら装着状態で来るのではなく、全部部品で来てユーザー側で装着するのかもしれない。
このあたりは実際の注文と配送された商品を確認しないと分からないところだ。

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共同購入のまとめ

以前の記事で紹介した店舗販売の物と比べれば、共同購入は随分安く抑えられそうだと言うのが分かった。
一台あたり安くても$5,000、もしかしたら$10,000程度は抑えられるかもしれない。
上記に含まれない警光灯、サイレン、無線機、車載端末、データ通信送受信機、車内配線などは、全てが新品だと合計で$10,000〜$20,000程になる。
それらに相当してもおかしくないだけの金額を、車の発注段階で抑制できるのは大きい。
しかも警察は何台もの自動車を運用しているのだから、10台で$50,000〜$100,000、20台で$100,000〜200,000の節約と言うのはかなりの額だ。
特に小さい自治体は財政規模が小さく、また自治体なのだから連邦政府のように自分でお金を刷れるわけでもない。
そういった町の警察が合理的にフリートを整備しようとする時、共同購入と言う選択肢は非常に重要な役割を果たしていると言えるだろう。

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購入方法はどれが良い?

共同購入が安く上がりそうなのは良いとして、一般的に警察はどの購入方法を選ぶのが合理的なのだろうか?。
つまり現金かローンか、リースをするのか所有するか。
これはアメリカの警察のみならず、世界中のフリートユーザーにとっては悩みどころだ。

支払い面から見てみよう。
現金調達は金利を支払わなくても良いが、必要な台数に対して十分な手元資金がなければ、車両の調達・更新計画は長期化を余儀なくされる。
古い車両を長く使うと整備費用が高くつくので、金利と比較して得かどうかは一概には言えない。
走行距離が少ない個人利用なら気にする必要は無いかもしれないが、複数台の自動車を運用し、一台一台の走行距離が長いフリートユーザーに取っては切実だ。
一方でローンとリースは手元資金以上の調達が可能だが、これに頼ってばかりだと金利を延々と支払わなくてはならず、期間が長期化或いは恒常化すれば金利分の歳出がバカにならない。

所有形態ではどうか。
購入による所有は自動車が資産として残るが、資産価値の下落が費用として発生してしまう。
特に中古で放出し、売却で得たお金を次の購入資金に回す場合、予想外のリセールの悪化は次の調達計画を大きく左右するだろう。
リースはその逆で、価値下落は残価設定という形で事前に把握可能だが、リースに頼りすぎると金利の支払いが固定費用のようになってしまう。
費用を一定化できると言えばそうなのだが、10年20年と続けた場合に費用負担が大きくなることは予想できる。
その費用を上手く使えば、増員や捜査費用の増額、職員の福利厚生、通信システムの更新に使えたかも知れないのだ。

どれも一長一短であることから、単一の方法を取るのではなく、それらを組み合わせたポートフォリオが一番良いのかも知れない。

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